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当協会が接遇研修を否定するたった一つの理由

  • 執筆者の写真: 十河 剛(そごう つよし)
    十河 剛(そごう つよし)
  • 7 日前
  • 読了時間: 4分

医療現場に必要なのは「接遇」ではなく

「コミュニケーション」である

「患者様」と呼び、深々とお辞儀をし、ホテルのような丁寧な言葉遣いをする——。

日本の医療現場で長らく金科玉条とされてきた「接遇」がいま、大きな曲がり角を迎えています。

本来、患者の満足度を高めるはずだった「接遇」が、皮肉にも患者の「お客様意識」を過剰に肥大化させ、理不尽な要求やペイシェント・ハラスメントを助長しているという側面が無視できなくなっているからです。

私たちが今、真に学ぶべきは、形を整える「接遇」ではなく、人間対人間の信頼を築く「コミュニケーション」です。


1. 「接遇」がハラスメントを誘発する皮肉

近年、医療・介護従事者の約40%が患者やその家族からの迷惑行為を経験しているという調査結果があります[1]。その背景として、過剰なサービスとしての接遇が「消費者の権利意識」を不当に高めている実態が指摘されています。


犯罪心理学の視点からは、カスタマーハラスメントを行う加害者は、「丁寧すぎる対応」を自分に対する屈服と誤認し、支配欲をエスカレートさせる傾向があるとされます。つまり、マニュアル通りの低い姿勢が、一部の患者の攻撃性を引き出すスイッチになってしまっているのです。「丁寧に応対されるのが当たり前」という土壌が、少しの不手際を「サービスの欠如」と捉えさせ、理不尽な要求へと繋がっています。


2. 訴訟リスクを分けるのは「3分の対話」

医療ミスが起きた際、訴訟に発展するかどうかを分けるのは、技術の差や言葉の丁寧さではありません。


ウェンディ・レヴィンソン博士らがJAMA(米国医師会雑誌)に発表した研究[2]によれば、訴訟歴のないプライマリ・ケア医は、訴訟歴のある医師に比べ、「診察の流れを説明し、患者の意見を求め、笑いやユーモアを交えた対話」を多く行っていることが明らかになりました。


訴訟のない医師の診察の平均時間は 18.3分と、訴訟のある医師の15.0分よりわずか「3分」長いだけでした。しかし、その3分間で行われていたのは、形式的なマナーではなく、患者の理解を確認し、話しやすい雰囲気を作る「双方向のコミュニケーション」だったのです。 3. コミュニケーションは「薬」と同じ治療効果を持つ さらに、質の高いコミュニケーションは、単に「感じが良い」という次元を超え、患者の身体を治す力があることが証明されています。


マージョリー・スチュワート博士によるメタ分析[3]では、医師と患者の適切なコミュニケーションが、以下の項目に直接的な改善をもたらすことが示されました。


血圧や血糖値の安定(生理的指標)


症状の解消と身体機能の回復


疼痛(痛み)のコントロール


表面的な「接遇」では、患者の深い不安や生活背景を聞き出すことはできません。患者が抱える真の悩みを対話によって引き出し、治療計画を共に決めるプロセス(患者中心のコミュニケーション)こそが、患者の治療意欲を呼び起こし、医学的な成果に直結するのです。


結論:形を磨くのをやめ、心を動かす技術を

「接遇」は、相手を「お客様」として扱うための礼儀です。しかし、「コミュニケーション」は、相手を「共に病に立ち向かうパートナー」として扱うための技術です。


今、医療現場に求められているのは、マニュアル通りの笑顔や敬語ではありません。


患者の不安に共感し、まずは話を聴き切ること


専門用語を、相手が理解できる言葉に翻訳すること


できないことは「できない」と誠実かつ毅然と伝えること


これら「心と心のやり取り」こそが、職員をハラスメントから守り、患者に最善の医療を提供する唯一の道です。私たちはサービス業のプロではなく、医療という対話のプロであるべきではないでしょうか。 引用文献

[1] UAゼンセン「2024年 カスタマーハラスメントに関するアンケート調査」https://uazensen.jp/wp-content/uploads/2025/01/9.第3回カスタマーハラスメントアンケート調査結果(2024年度実施).pdf

[2] 桐生正幸『カスタマーハラスメントはなぜ起こるのか:心理学から見た背景と対策』

[3] Levinson W, Roter DL, Mullooly JP, Dull VT, Frankel RM. Physician-patient communication. The relationship with malpractice claims among primary care physicians and surgeons. JAMA. 1997;277(7):553-559.

[4] Stewart MA. Effective physician-patient communication and health outcomes: a review. CMAJ. 1995;152(9):1423-1433.


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